部分矯正で後戻りする原因と対処法を歯科医師が解説
部分矯正は、標準的な「全体矯正」と異なる点があるため、治療後の後戻りが起こりやすいように思われがちです。
実際、いくつかの理由で後戻りが生じることもありますが、それを予防する方法や改善する方法も用意されていますので、心配しすぎる必要もありません。
今回はそんな部分矯正で後戻りする原因と対処法を詳しく解説します。
部分矯正ってなに?
- 歯並びの一部だけを治す方法
歯列矯正は、治療する範囲によって「全体矯正」と「部分矯正」の2つに大きく分けることができます。
全体矯正はその名の通り、歯並び全体を治療する方法です。皆さんが思い浮かべる歯列矯正がまさにそれであり、詳しい説明は不要といえます。
一方、部分矯正は“前歯だけ”を治療対象とするなど、処置を加える範囲が歯列の一部に限られます。
多くのケースでは、出っ歯やすきっ歯などを短期的に治すために、部分矯正を選択します。
- 使用する装置に違いはない
部分矯正も全体矯正も使用するのは「マルチブラケット装置」か「マウスピース型矯正装置」のどちらかです。
最近ではインビザラインでも部分矯正に対応したシステムが開発されており、マウスピース矯正でも部分的な治療が可能となっています。
- 部分矯正にかかる期間
部分矯正にかかる期間は、ケースによって大きく異なります。
1~2本の前歯の傾きを少しだけ矯正するのであれば、3~6か月程度で終わりますが、前歯部を全体的に矯正する場合は、6~12か月程度かかります。
全体矯正のように2~3年の期間を要することはありません。
部分矯正で後戻りが起こる理由
部分矯正で後戻りが起こる理由としては、以下の4点が挙げられます。
- 保定を適切に行わなかった
歯の後戻りを防止する保定処置(ほていしょち)が必要となるのは全体矯正だけではありません。
短期間で終わる部分矯正でも後戻りのリスクを伴うため、歯を動かす動的治療が終わった後には必ず保定をしなければなりません。
この保定を省いたり、保定装置を装着する時間・期間が短すぎたりすると後戻りが生じます。
- 親知らずによる歯の圧迫
部分矯正は、3~12か月程度で終わる治療なので、基本的に抜歯を行いません。
親知らずに関しては、事前に抜くこともあり得ますが、基本的には手をつけずに前歯部の歯並びを矯正していきます。
その結果、親知らずが手前の歯を圧迫して歯の後戻りを促すこともあります。
生え方・埋まり方が悪い親知らずは、全体の歯並び・かみ合わせを乱すおそれがあることを知っておきましょう。
- 歯ぎしりや舌癖がある
歯並び・かみ合わせの異常というのは、骨格的な問題だけに起因しているわけではありません。
上下の歯でギリギリと歯を軋ませる「歯ぎしり」や舌を前に突き出す「舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)」などによっても出っ歯や乱ぐい歯、すきっ歯などが誘発されます。
そうした悪習癖が改善されていなければ、部分矯正後の後戻りも起こりやすいです。
- 部分矯正では治せない歯並びだった
部分矯正は、ある意味で全体矯正よりも高度な知識と技術を要します。
なぜなら、部分矯正では一部の歯にしか処置を加えられないため、全体の歯並び・かみ合わせを改善することがそもそも不可能だからです。
歯並びの乱れが軽度であれば、部分矯正でも治しやすいのですが、中等度から重度のケースで強引に部分矯正を適応すると、後戻りが起こりやすくなります。
治療前よりかみ合わせが悪くなることもあるため、正しい診断を下せる歯科医師に任せるのが大前提となります。
部分矯正で後戻りが起こってしまったら?
- まずは保定を再開・継続
部分矯正後の保定が不十分で後戻りが生じた場合は、まずリテーナーの装着を再開しましょう。
後戻りの程度が軽ければ、リテーナーだけで症状を改善できます。当然ですが主治医に相談することは必須となります。
- 後戻りが大きければ再治療
リテーナーの装着では改善できないほどの後戻りには、再治療が必要になります。
最初の治療と同じ装置を使用することになりますが、矯正期間は短くなることが多いです。
ただし治療前とほぼ同じ状態にまで戻っている場合は、最初の治療と同程度の期間がかかります。
まとめ
今回は、部分矯正で後戻りする原因と対処法について解説しました。
矯正治療は極めて専門性の高い分野であり、歯科医師であれば誰でも行えるというわけではありません。
経験の浅い歯科医師に任せると、後戻りのリスクが高くなったり、治療前よりもかみ合わせが悪くなったりするなどのトラブルに見舞われやすくなるため十分な注意が必要です。
とくに「非抜歯で治療できる」「短期間で歯並びがきれいになる」「月額〇円で矯正できます」といった触れ込みで患者様を集めている場合は、一度冷静に考えましょう。
歯並びの矯正は医療の一環であり、極端に安く、短期間に終えられることはまずないのです。
そういう意味で部分矯正を検討する場合は、いくつかの医院でセカンドオピニオンを受けた方が良いといえます。